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極東製薬工業(株)公式ブログです。
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【主席研究員部屋7】 水は培地の生命です

「水は培地の生命です」

最近は大型台風なども含めて記録に残るほど水害が頻発しており、被害に遭われた方はご苦労をされているのだろうと心を痛めています。台風ではないのですが、去年は私達の研究所のある茨城地方も集中豪雨に襲われました。最初はまあ大丈夫だろうと気楽に構えて車で帰宅したのですが、道路はすでにかなり冠水しており、自宅に帰り着くのにほんとうに苦労しました。水をなめたためとひどい目に遭ってしまったんです。

水は御存知の通り、生命を維持するためには欠くべからざる物質です。成人では体重の50〜60%を占めますし、食事がなくても人は2〜3週間生きていくことが可能ですが(個人的には全く自信がありません…、1日分3食も抜いたら生きてゆく気力が無くなりそうです。)、水なしだと数日が限界だと言われています。

そこで今回は培地の成分の中でも99〜98%と最も高い重量の比率を占め、かつ培地、特に無血清培地の性能に大きな影響を与える重要な成分、「水」の話をします。水はとても大事なんですよという話です。

培地の調製に使われる水についてですが、精製度の低い水は培地の水には向きません。特に無血清培地では水の精製度が性能に影響します。血清を添加した培地の場合、精製度の低い水でもあまり性能差は出ないのですが(だからといって水道水は使えません)、無血清培地にした場合、精製度の低い水を使うと増殖率が低下したりします。血清蛋白質には毒性の中和効果があることが知られていますが、逆に言えば、この様な蛋白質が含まれない培地、例えば無血清培地では水の精製度がとても重要なのです。そのため、培地用として精製水の調製法を複数準備しており、用途や目的によって使い分けています。

水の良し悪しが培地の性能を左右する。水は培地の生命なんですよ。

私の学生時代(30うん年前ですねえ)にはイオン交換水を2回蒸留した再蒸留水を使っていました。再蒸留水の製造は学生にとってかなりの手間で、20kg以上の重いイオン交換水のタンクを棚の上に上げて少し栓を開き、ゆっくりヒーターを組み込んだガラス製の蒸留装置に流し込んで、まず一回蒸留する。その後、蒸留した水をもう一度棚に持ち上げて蒸留装置に繋いだ後に、再度蒸留するという作業でした。特に蒸留水が溜まったタンクを頻繁に上げたり下げたりする必要があるというのも問題の一つでした。それだけではなく、二回も蒸留するので、時間当りに採水できる量はあまり多くないということも問題でした。現在では再蒸留法を用いないでも純度の高い精製水が大量に作れる装置が販売されており、そのような問題は無くなくなっています。

私達が学生時代に使っていたガラス製の蒸留水製造装置は逆さにしたクラゲかタコに形が似ていたので、仲間内で逆さ火星人と呼ばれていましたが、現在ではこの様な蒸留水製造装置はあまり見かけなくなっており、少し寂しい気分ではあります。と言っても、今更学生時代のような重労働をしたいのかと聞かれれば、嫌だとは言いそうですが。もっとも、社内(と家内...)から少しは運動したらと言う声が聞こえていますが、できるだけ聞こえないふりをしています。

さて、一般的には超純水と呼ばれる精製水が培地調製に使われることが多いです。超純水は日本薬局方の規格「医薬品等の試験に用いる水」(第十七改正日本薬局方 P2459 G8)、米国試験材料協会のバイオメディカルグレード(ASTM D 5196-06)、用水・排水の試験に用いる水のA4以上(JIS K 0557:1998)等の規格がほぼ該当します。おおまかには比抵抗値(電気抵抗率)が18MΩ・cm以上、更には全有機炭素(TOC、Total Organic Carbon)が50 ppb以下の状態まで精製された精製水を指しています。精製度の高い水はハングリーウォーターとも呼ばれており、容器の残留物や空気中の塵などを取り込んであっという間に規格値から外れてしまうんです。以前確認したところ、採取時はTOCが数ppbだったのですが、容器に入れて1時間程度放置していたら10倍以上に跳ね上がっていました。精製水は採取してから出来るだけ早く使わないとだめなんですよね。

最後に水にかかわる古傷の昔話なんぞを少し…
ある朝、私についていた学部学生が青い顔をして夜中に逆さ火星人が大爆発したと言うのです。びっくりして何があったのか尋ねた処、深夜に蒸留水製造装置が破裂して、辺り一面ひどいことになったとのこと。手を抜きたがったその学生が流れ込むイオン交換水の量を加減し、ヒーター温度を下げれば一晩放置しても良いだろうと考えたことが破裂した原因でした。

何が起こったかというと、採取していた再蒸留水が液体瓶の上部まで溜まりきったために、蒸留水取り出し口が液面で塞がれたこと。そこに供給側のイオン交換水が空になったため、流入弁が閉じた状態でヒーターが停止したこと。そのため、加熱している蒸留槽内に冷えた蒸留水が急激に逆流した結果、ガラス製の蒸留槽が破裂したようでした。割れた破片の一部は私の使っていた古い実験机に刺さっているという恐ろしい状況でした。もしその時にそこにいたらと考えると冷や汗が止まりません。その後、私とその迂闊な学生がまとめて教授にたっぷり、それはもうたっぷりと説教されたことは良い思い出(?)となっています。

水をなめると本当にひどい目に遭います…



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【主席研究員部屋6】 人の体ってすごいんです(後編)

「人の体ってすごいんです」の続きでございます。



□ ボールミルってのはね □

このボールミルによる培地製造ですが、粉砕機、混合機を組わせて使ったほうが短時間で大量に良い培地が生産できると仰る同業の方もおられます。確かにボールミルはその原理上、バッチ単位(茶筒の容積量に依存する)でしか製造できない上、粉砕や混合工程にやや時間が掛ります。と言っても1バッチの生産(製造一回分です)そのものに掛かる時間は数日間程度ですし、1t程度の粉末培地を生産できると言われています(凡そ培地数万Lに相当する分ですね)。

しかしながら、ボールミルは時間を掛けて混合しながら粉砕しているため、粉末には殆ど熱が掛かりません。一般的な粉砕機は高速で回るピンや、ハンマーによる衝撃力やせん断力によって原料を粉砕します。これらの粉砕機は高速に粉砕できますが、短時間で急激に摩擦や衝突が起こるため、熱が発生しやすいのです。特に高速にするほど熱が発生しやすいので、粉砕速度は抑え気味にしたほうが良かったりします。ところがボールミルでは品温は室温+1〜2℃程度にしかなりません。真夏の気温は30℃以上だ、なんてツッコミ入れないでくださいね、当社の場合、製造区画は温度が管理されている上、クリーンルーム仕様です。はっきりいって私の家より快適です。ボールミルは粉末培地にとっても優しい機械なんですよ。

それと、ボールミルの良い点は閉鎖空間の中で混合と粉砕が進むので、混合粉砕中に外から余計な異物の入る可能性が殆どないことです。これは製造する側にとっては非常にありがたいことです。異物によってはエンドトキシン(グラム陰性菌外膜に存在するリポ多糖からなる物質で、細胞や生体に影響を与えます。)値や、バイオバーデン(材料や製品中に存在する生育可能な微生物数)が上がったりします。更に言えば、異物が混入した製品なんて売れません。




□ 人の体は測定機 □

ここから先はオタク オブ ザ オタクの話。ボールミルによる混合粉砕は、慣れてくると混合時の音を聞いているだけで、ミルの中の粉末の粉砕状態がある程度予測できるようになったりします。なんのこっちゃいという方もおられそうなので説明すると、粉砕の初期には当然原料は荒く、大きな粒子です。ボールミルの中で、ミルボールがボールミル内壁にぶつかる際にこれらの粒子が入り込むと衝撃が吸収されることになり、その時に発生する音は低音で籠もった感じになります。

粉砕が進むと当然粒子は細かく、均一になっていきます。そうなってくると衝撃が吸収されにくくなるため、ミルボールはボールミル内壁に直接ぶつかるようになります。この時に発生する音は高音で、澄んだ音です。この音の聞き分けができるようになると、粉砕の状態がある程度予測できるようになります。また、原料の種類によっては、ボールミル内壁に固着したりするものがありますが、これも音で判別できます(実際には衝突音が低く、聞こえにくくなっていきます)。その場合、ボールミルの処にすっ飛んでいって対処することになります。だって、固着すると原料が粉砕混合されなくなるんですよね。

もっとも、この話は試作段階のことで、製品を作る際には、それらの問題に対処された製造方法がSOP化されていますので、別段音を聞いて粉砕状態を判断するなんてことはしていませんよ(そんなことをしているのは私だけかもしれないが...)。 

はて、この文章を書いているうちに思いついたんだけど、ボールミルの混合、粉砕音を解析して内部の粉砕や混合状態を推定する機械って作れるんじゃないだろうか? あったら便利だよなあ。もし作られたメーカーさんがいたらぜひオタクまでご一報下さい。




□ 黙って触ればピタリと判る □

培地粉体は粒子径が10〜100μmを頂点として分布しています。この粒子径が小さすぎると溶解時に培地の微粉の粉塵が舞い上がりやすくなって取り扱いが面倒です。辺りも汚れますし、マスクをしてないと吸い込んでしまい、かなり咳き込むことになります(慣れないとくしゃみが止まらなくなったりします。)。逆に粉砕が不十分で、粒子が大きすぎると、溶解に時間がかかったり、溶け残ったりします。そこで適切な粒度になるまで粉砕時間を変えながら粒度を確認するという作業が必要になります。

粒度は粒度計という装置を使って測定します。その際にはレーザ回折型粒度分布測定装置という器械で測定をしますが、この方法だと精度良く定量的に粒度分布が測定できます。ところが、昔はそんな便利な機械はありませんでした。初期には振盪ふるい法という測定法がありました。これはふるいのメッシュの目開き(ふるいの網の目の開き幅のことです)の異なる複数のふるいを組み合わせて、サンプルを一定時間ふるいにかけ、各ふるいに残ったサンプルの残量を測定することで粒度を測定する方法です。この方法は時間がかかる上、分布域の測定幅が粗い上に、手間が掛ります。なぜなら、測定幅を細かくしていくためには目開きの異なるふるいをどれだけたくさん重ねあわせるかってことですし、全部のふるいに残っている残量をいちいち計らなくてはならないからです。

なんとかならないか〜というと、実はタダで誰でも使え、かつ短時間で計測できる簡易の測定装置が身近にあったりします。それは自分の指です。操作法はいたって簡単。耳かき1杯の粉体を人差し指に載せ、それを親指の腹で撫でくり回すだけ。測定結果は当然数値化なんてできる代物じゃありませんが、粉砕が不十分な粉体はザラザラ感が強く、指の腹に刺さるような感じになります。十分に粉砕されると、粉体はヌルヌルと指の腹に吸い付くようになり、まるで液体を撫ぜているような感じです。慣れてくるとかなり精度よく粉体の状態が見分けられるようになりますね。黙って触ればピタリと判るという感じですかね。1/100ミリ(10μm)の粉体の粒度を指先で判別しているというと、なんというか、匠の技の世界ですね。

 測定機器や分析手法が進歩して、今では殆ど使われなくなっている匠の技ですが、それでもオタクとしては人の体ってのは万能の計測機器ですごいんだなあと思うことしきりなわけです。さて、今回の「日本オタクばなし」はこの辺で〆たいと思います。私の怠慢で大分前回から間が空いてしまいましたが、見捨てずに次回のオタク話まで気長に待ってやって下さいませ。
お後がよろしいようで。




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【主席研究員部屋5】 人の体ってすごいんです(前編)

熊本地震で被害を受けられた皆様へ
まずは熊本地震で被害を受けられている皆様へ、心よりお見舞いを申し上げますとともに、今尚強い余震も続いているようですが、更なる被害を受けること無く、より早い復興を果たされるよう心よりお祈り申し上げます。

去る2011年の3月11日、茨城県の北端にある私達の工場も東日本大震災では大きな被害を受けました。元に戻すには長い時間と多大な努力が必要でした。そんな時にユーザー様も含めて様々な方からありがたい励ましや支援を頂きました。私達にとって、心の支えとなった言葉でありますが、この場を借りて、被災され、復興に尽力されている皆様に贈りたいと思います。

「がんばれ!! 熊本!、大分!」



□ 粉物の話 □
さて、今回は本業の培地生産系の「日本オタクばなし」から、粉物(こなもの)作りの話をいたしましょう。内輪では粉物と呼んでおりますが、お好み焼きやたこ焼きのことではなくて、粉末培地のことです(江戸前の産なもので、もんじゃ焼が好きです。モチと明太子を入れたもんじゃは冷えたビールによく合います。)。使われている方はよくご存知とは思いますが、細胞培養用培地の形態としては凡そ液体製品と粉末製品の二種類に別けられます。凡そと言っているのは、粘性の非常に高いコロニー用培地というのがあるからで、ほぼ水飴に近いネバネバデロデロ状態を液体と呼ぶにはやや抵抗があります。

研究用途の培地では、すぐに使える液体培地がほぼ主流になっています。私的には有効期間が短いことや、成分の改変が難しいことから液体より粉物の方が好きなんです。というか、私が培地を関わり始めた頃は、基礎培地に何かしら工夫を加えないと培養できない細胞が殆どであったため、培地は基礎培地を溶解して、細胞の要求成分を更に加えて作るものだというのが普通の感覚でした。しかしまあ、最近は様々な細胞向けのReady-to-useの液体培地が各社から出てきたため、培地組成に工夫を加えないと培養できないといったこともなくなってきました。使う側としても購入してすぐに使える培地がいい、培地の調整や工夫に時間を取られたくないというのは理解できます。まあ世の中の流れですな。

それに対して、産業用途、例えばバイオ医薬品生産用などでは粉末培地が主流かと思います。考えてみてください。バイオ医薬品生産用の大型培養タンクは最大で2万Lぐらいまでの容積があります。これをボトル入りの液体培地なんかで満たそうとしたら、それはもうとんでもない事になります。フタを開けるのだけでもエネルギーが尽きてしまいます。昔々、サンプル用に500本ぐらい小分けチューブの液体培地を手作りしたら、小分け分注のための容器の開封で親指と人差し指の皮が剥けてしまったことがあります。たいそう痛かったです。そんなことをユーザーさんにしていただく訳にはいきません。最近では100L〜1,000L容量の液体培地用バッグもあるようですが、かなりお高いです。手っ取り早くはタンクローリー車を使うという発想もありました。もっともそんなことをしたら無菌性が保証できません。運んでる最中にコンタミしますね。

それだけじゃなくて、水ってのはとてつもなく重いので、輸送にコストが掛かってしまいます。例えば国際間の取引で、1万L分、約10tの液体培地を航空輸送なんてことになったら、輸送費のほうが培地の価格を超えることになりかねません。産業市場のコスト優先の考え方として余計なランニングコストは許容していただけませんので液体培地の航空輸送はかなり難しいでしょうね。船便という手段もありますが、通関まで含めると輸送に相当の期間がかかります。有効期間の短い液体培地では使用可能な期間が短くなるので使い勝手が悪くなります。また、その間の冷蔵の手間まで含めて、やはりそれなりのコストは掛ってしまいます。



□ 粉物の作り方は? □
それでは、本日のオタクッキング、粉物の作り方です。さてさて、昔、どなたかに培地なんてのは成分をミキサーに入れてが〜と混ぜればなんとかなるんじゃないの? と言われたことがありますが、そんな簡単には培地は混ざりません。なぜかというと

• 培地の成分数は少ないもので30種類ぐらい、多いものでは80種類を超えています。
• 比重も軽いもので0.6、重いもので3.5ぐらいまであります。
• 微量成分と大量の成分の量比は、製品によって違いますが、MEMなどで1対8万程度、トレースエレメントを多種含む無血清培地とかでは1対10億の差が有るものがあります。1対10億の量比ということは、1tの粉末培地あたりに微量成分は約1mg、耳かき1杯分しか入っていないということですね。

こんなもんがほんとに混ざるのか?という世界です。昔、混合機のメーカーさんに前述の話をして、なんとか一気にがーと混ぜられる機械がないものかと聞いたことがありますが、「量比が1:100を超えると十分に混ざりませんがね」と言われてしまいました。

それでは、混ざらないと言われたしまったものどうやって混ぜているのかという話です。ノウハウの領域に属しているので、具体的にはお教えできませんが(もったいぶるなと言わないでくださいね。この組合せを見つけるのに試行錯誤を繰り返してきていますので、大層な時間とお金が掛かってるんです。)、物性や、量比的に近い物同士を組み合わせて粉砕と混合を行う工程を幾つも組み合わせて、微量な成分を含めてある程度マクロ的に粒径や組成が均一な粉末にしていくというテクです。

粉末培地の原料の粉砕にはミル(mill)という機械を使います。元々は石臼などを指す言葉であったようですが、摩擦や圧縮の物理的なエネルギーによって物質を粉砕し粒径を揃える機械です。ミルには、ボールミル、ピンミル、ハンマーミル、ジェットミルなど様々なものがあります。粉砕する原理がそれぞれ異なり、使用目的や必要とされる粒径により各々のミルが選択されます。このたくさんあるミルの中でもかなり昔からあり、私が好きなものがボールミルです。

これは、具体的には大きな筒(両端の塞がった巨大な茶筒を想像してもらえればOK)の中に原料とミルボール(粉砕ボールとも呼ばれる)という焼き物やら鉄やらの玉を混ぜて投入し、蓋をしっかり閉めてから、円筒軸にそってが〜らんこ、が〜らんことぶん回す機械です。ボールミルの良い点は混合と粉砕が同時に行えることです。原料はミルボールと内壁やボールとボール間の摩砕力、ボールが転がり落ちる時の衝撃力で細かく粉砕されます。同時にボールと原料との回転によって混合攪拌されます。つまり、ボールミルは粉砕機であり、かつ混合機なんです。

前振りの話が長くなってしまったので、続きは次回、すぐに出るので待っててくださいね。



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【主席研究員部屋4】この子の名前はどうしよう?

 久方ぶりでございます。野辺の一培地屋(オタク屋かも)佐々木でございます。

 さて、世の中の様々なニーズが増えた所為か、近年は仕事のバリエーションも大分増えています。呑気に「石川や 浜の真砂は 尽くるとも 世に培養の種は尽きまじ」などとひとごとのように言えていたら良いのですがなかなかそうも行かないのが世の常ですね。もっとも全部引き受けてしまうと油で釜茹でされるよりひどいことになりますが…

 まあ、そのようなニーズから出来上がった製品(培地)は子供みたいなものなので、「大きくなれよ〜」と心のなかでハイリホーしながら世の中に送り出します(かなりネタが古い)。その際、はたと困るのが「さて、この子の名前はどうしよう?」ということです。身贔屓と言われても、やはり出来の良い子にはユーザーの方に覚えていただける良い名前を付けてあげたいと思うのが親心です。

 この名前付けが実に難しいのです。世の中には商標登録というシステムが有り、これに登録されている名前とバッティングする名前は使うことが出来ません。登録された商標は開発したメーカーにとって、ブランドを形成するための必須のツールですが、登録されている名前の数が半端無いため、無い頭を捻って製品名を決めても大抵バッティングするので、ものすごい数の名前を考えなくてはいけなくなります。この作業が案外大変です。

 結果として力尽きて、多くの場合は、商標に登録できないような開発コードや記号の組合せでお茶を濁すことになります。早々に記号の名前が溢れますので、製品の内容を名前では識別することが出来ず、時間が経ってくると開発者ですら「この子は誰だったっけ」という現象が起こります(単に私の記憶容量の少なさの問題かもしれませんが…)。そうでなければ製品イメージとはかけ離れますが、使われることがなさそうな名前を選ぶという手もあります。

 私的にはそのうちに「疾風怒濤○○培地」とか「「物知義理✕✕培地」」という名前をつけてみたいと思っています。ただし、そんなことをすれば開発会議の席上で参加者全員のブーイングを食らった上、企画書に不可の判子を押されて差し戻されるという未来も容易に予測できるので、なかなか踏み切ることが出来ません。



ところであなたのお名前は?

自社製品の名前付けの話との関連で、他の培地はどんな風に培地の名前をつけているのか、少しうんちく話などしてみます。今までの処、培地の名称は凡そ以下のようなグループ分け出来るようです。

《1》 開発者の名前をつけたもの

《2》 開発者が所属する機関名やその略号

《3》 内容や性能を示す形容詞や名詞などの組み合わせあるいはその略号

《4》 単なる記号




《1》 は、古い時代に開発された培地には多いです。有名なところでは Eagle 先生の Eagle MEMだと思います。正式名称は「Minimum Essential Medium Eagle」となります。MEM はバリエーションが多く、多くの先生方が変法を開発されていらっしゃいます。Dulbecco 先生が改変されたのがDMEM (Dulbecco’s modified Eagle's medium)培地2,3)です。更にそれを Iscove 先生が改変されて IMDM (Iscove’s Modified Dulbecco’s Modified Eagles MEM) 培地4,5)となりました。名前はだんだん長くなっていきます。さすがにこれで打ち止めのなんですが、MEM の改変培地はそれ以外もバリエーションが有ります。

Eagle 先生との双璧といえば Ham 先生の Ham F12 培地6, 7)です。 Ham 先生は微量元素に着目されて培地の開発をされています。そのため、他の基礎培地と比較して微量成分の種類が非常に多いです。微量元素の細胞に対する効果を判定するのは非常に難しく、特に生体成分(FBS なんか)を加えるとこの生体成分からのコンタミネーションによって必要量が賄われてしまうことも多いです。必要量もとんでもなく少なく(ppb オーダー)、分析が難しいため、培地の無血清化を試みる際に苦労する成分となっています。

最近では、上皮系細胞等の無血清培地を開発するのに、栄養素的なリソースは DMEM を、微量成分的なリソースは Ham F12 からとしてこれらを混合したものをベースに使うことで、この微量成分の検討に手を抜く...(アワワワ 口が滑った)、もとい開発期間のコストが低減できます。実際に DMEMHam F12 を等量混合した培地が DF 培地という名称で各社から販売されています。



《2》 の例は研究者の所属機関の略号と数字の組み合わせなどで名称を決めているような場合です。メージャー処としては、本ブログ へ寄稿して下さった順天堂大学の奥村先生も言及されていますが、 Roswell Park Memorial Institute の Moore 先生の一派により作られた RPMI1640 培地8,9)です。この培地はヒト白血病細胞の増殖を指標に開発された培地で、緩衝系が他の培地と比較して独特の組成です。

他には以下のような名称の培地も有ります。

MCDB 培地:
Department of Molecular, Cellular and Developmental Biology at the University of Colorado. (Ham 先生が所属されていた研究所)

WAJC404 培地:
W. Alton Jones Cell Science Center



《3》 の例では企業が出す培地の名称によく使われています。例えば九州大学の原田先生、牧野先生が開発された凍害保護液「CP-1」はCryoprotectant(凍害保護物質)の略号です。同様に凍結保存用培地 「FM-1」は開発者の元理化学研究所の大野先生によれば、Freeze Mediumの略号とのことです。それだけではなく、Hyper だの enriched だの Boost などを接頭語として付けることも有ります。やはり九州大学の村上先生の開発されたハイブリドーマ用無血清培地「E-RDF」の E は enriched の略号ですね。これらの接頭語はこの製品はこんなにすごいんだぞという開発者の意気込みみたいなもんですが、同じ用途の製品市場で強調された製品名称がたくさん並ぶと有り難みはなくなっていきます。



《4》 については、よくあるのは開発順にA、B、Cだの、1、2、3だの振っていく場合で多い例ですね。開発者でも時々、この子はだあれ?現象を引き起こします(私だけかもしれませんが)。ちなみに弊社のヒトiPS/ES細胞用凍結保存液「CP-5E」は「CP-1」から5番目の開発製品として名付けられたのではありません。「CP-5E」は「CP-1」に対してEthylene glycolが5%追加されているためにこの名称になりました。その意味では内容に関する名称の付け方ですね。



以上が培地の名称うんちくです。若いころはいずれ自分が開発した培地に自分の名前を付けたいと思っていた時期もありますが、さすがにこの歳(50雲斎)になると恥ずかしくてできません。「疾風怒濤○○培地」とか「物知義理✕✕培地」とかを考えているのは恥ずかしくないのかと突っ込まれたら返答しにくいですが...  まあ、弊社から上記の名前の培地が発売されたとしたら培地屋がついに周りの説得に成功したとお考え下さい。乞うご期待

今日はここまで 



【参考文献】
1) Eagle H, Amino acid metabolism in mammalian cell cultures., Science, 1959, Vol.130, 3373, p432-437
2) Morton HJ, A survey of commercially available tissue culture media., In Vito, 1970, Vol.6, 2, p89-108
3) Rutzky LP, etal., Supplement to a survey of commercially available tissue culture media (1970), In Vito, 1974, Vol.9, 6, p468-468
4) Guilbert LJ, etal., Partial replacement of serum by selenite, transferrin, albumin and lecithin in haemopoietic cell cultures, Nature, 1976, Vol.263, 5578, p594-595
5) Iscove NN, etal., Complete replacement of serum by albumin, transferrin, and soybean lipid in cultures of lipopolysaccharide-reactive B lymphocytes., J Exp Med., 1978, Vol.147, 3, p923-933
6) HAM RG, CLONAL GROWTH OF MAMMALIAN CELLS IN A CHEMICALLY DEFINED, SYNTHETIC MEDIUM., Proc Natl Acad Sci USA., 1965, 53, p288-293
7) HAM RG, Cloning of mammalian cells, Methods in Cell Physiology Edited by DM Prescott, 1972, 5th edition, , p33-74
8) Moore GE, etal., Culture of normal human leukocytes., JAMA, 1967, 199, 8, p519-524
9) Moore GE, etal., Cell line derived from patient with myeloma., N Y State J Med, 1968, 68, 15, p2054-2060


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【主席研究員部屋3】培地の代わりに・・・

培地の代わりに接着剤を作り、容器ごと廃棄した件



 前回でのお約束、今回は失敗話でございます。さて、若かりし頃は知識も含めて経験不足からの笑っちゃうような失敗をしたことが何回かありますね(「今でも時々 やらかしているじゃないの」とか言われそうな気もしますが。

 その失敗はα-リポ酸(チオクト酸)を加えた培地を試作するときにやらかしました。

 さてここで一寸うんちくです。α-リポ酸はエネルギー消費を増大させ1)、脂肪細胞の分化を抑制するため2)、ダイエット向け健康食品の代名詞となっています。もっともα-リポ酸がヒトでダイエットに効果があるという明確な論文はないそうです3)。使ってみるかなと真面目に考えた時期があり、ちょっと残念(そんなものを使うより食べる量を減らしなさいと…)。閑話休題(それはさておき)

 α-リポ酸はクエン酸回路のピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の補酵素で、ピルビン酸をアセチルCoA に変換しているなどエネルギー代謝には必須のビタミン様物質です。また、強い抗酸化作用が有り4)、培地中では酸化毒性の中和を目的として添加します。そのため低酸素条件を好む正常組織系細胞や高酸素条件の高密度培養などの培地にはα-リポ酸を加える事が多いです。例えば、基礎培地では MEM-α、Ham F12 なんかに、無血清培地としては弊社の E-RDF 培地や MCDB 系の無血清培地に入っています。まあ、MCDB 系無血清培地は Ham F12 から派生した培地なので入っているのは当然なんですが。

 失敗話に戻りますが、α-リポ酸は脂溶性なので、本来は有機溶媒、例えばエタノールに溶解して培地に加えます。培地では添加量が非常に少ないので、この程度なら水でも溶けるじゃないかと軽く考えて、水に加えてみたところ当然のことながら全く溶けなかった。半日ぐらい撹拌してみたが、やはり溶けない。ムキになって煮ちまえ〜とやったところ、溶けるどころか黄色いネトネトになって試験管の底に張り付いてしまった。それはまるで合成ゴム系の接着剤のようだった…。それからは 何をしても試験管底の接着剤は取れることはなかった。

 慌てていろいろ調べてみるとα-リポ酸は加熱により不可逆に重合するとある。始める前に調べておくのが筋ですが、その程度のこともしておかなかった自分の迂闊さにしばらくがっくりと落ち込んだ後、試験管ごと失敗作をガラスのゴミ箱に隠蔽したのである。まあそのおかげで今では後輩たちにα-リポ酸の添加法について得意気に説明できるようになっている。当然、失敗した話はしないが(ブログでばらしてどうすんだか)。


水と油の結婚


 脂溶性物質添加の失敗談が出てきたところで、うんちく話Part.2。水に混ざらない脂溶性物質をどうやって培地に加えるかという可溶化の話です。色々なやり方はあるのですが、大凡には以下の4つです。

a) 担体などに結合する方法

b) リポソームなどのカプセル化

c) 界面活性剤によるミセル化

d) エステル化する

 溶かしこみたい物質や目的によって方法は異なります。a)b) などは細胞膜の透過性が上がり、細胞内への移行性が高くなるのでお勧めなんですが、問題点としては培地の保存安定性が悪くなる点です(場合によっては1日でアウトなんてことも有りえます)。また担体は高額なものや安全性に問題があるものも多いです。必須脂肪酸をアルブミンに結合させることなんかはよく行われますね。アルブミンはエンドサイトーシスで細胞内に入り込むので、細胞内取込みの効率が上がります。ですが、無血清培地、特に医薬品生産用培地では生体蛋白質を入れることが御法度なことが多いので、これに代わるものを用意する必要があります。

 c) の界面活性剤を用いる方法は安価で良いのですが、界面活性剤そのものが細胞に影響をあたえることも多いので、影響の少ない界面活性剤と濃度の組合せを細胞ごとに考えなくてはなりませんから結構面倒くさいです。

 d) のエステル化する方法も安価ですが、活性が低くなることが多いです。また、培地中で元の脂溶性物質に戻ってそれこそ元の木阿弥になったりもします。

 各々一長一短ですが、ケース・バイ・ケースで最適な方法を探すのも結構楽しいです。お困りの際は応相談で...(いかん、商売モードに入ってしまった)。まあ 今回はこのへんでお開きとさせて下さい。

【参考文献】


1) Doggrell SA., α-Lipoic acid, an anti-obesity agent?, Expert Opinion on Investigational Drugs, 2004 Dec;13(12)):1641-43

2) Cho KJ, et al.,α-Lipoic Acid Inhibits Adipocyte Differentiation by Regulating Pro-adipogenic Transcription Factors via Mitogen-activated Protein Kinase Pathways., J Biol Chem, 2003 Sep, 278(37)):34823-33

3) (独)国立健康・栄養研究所 構築グループ, 【話題の食品成分の科学情報:詳細】α-リポ酸の安全性・有効性情報 (痩身効果との関連) (ver.111104), (独)国立健康・栄養研究所ウェブサイト, 2011/11/04, http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail471.html

4) Packer L, Witt EH, Tritschler HJ, α-Lipoic acid as a biological antioxidant., Free Radic Biol Med. 1995 Aug;19(2):227


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メールブルー cellculture@kyokutoseiyaku.co.jp

【主席研究員部屋2】培地ってね(後編)

培地とはなんぞや の続きでございます

7.解毒作用
 混入、生成される毒性物の除去や中和などです。特に酸化毒性の中和は様々な培養系で要求されており、各社で独自のノウハウなんかも有ります(うふふ、ないしょ〜、て、男がやっても気持ち悪いだけですね)

8.モニタリング
 これはコンタミや増殖状態のモニタリングですね。pH指示薬のフェノールレッドが用いられています。それ以外は毒性などの問題で使われていません。何か他のものはないかpH指示薬を試したことが有りますがほとんどだめでした。
 フェノールレッドを入れなければ培地の色は極薄い淡黄色で、これは成分の葉酸やリボフラビンの色が出ているからです。他に色の出る成分としては赤いシアノコバラミン(ビタミンB12)がありますが、添加量が少ないので、ほとんど色調に影響しません。ちなみに、目薬の色も同様で、赤ければシアノコバラミンが、黄色ければリボフラビンが多いようです。

9.細胞の浮遊化/接着
 浮遊化には界面活性剤などの分散剤を、細胞接着には血清や細胞外マトリックス(Extra Cellular Matrix、ECM)などを用います。ECMは培地に添加せず、培養器質に直接塗布されている場合も多いので、完全な培地成分とは言いがたいのですが。

10.物質取り込み補助
 培地成分では培養細胞が元々住んでいた環境に存在する同じ成分と比較して、濃度が高いことがしばしばあります。これは、その成分の取込み効率が培養環境では生体内より悪いためと考えられます。
 細胞内への物質の取込みは様々な方法があります。低分子はイオンチャンネルやピノサイトーシスなどで取り込まれますが、これだけでは必要量が足りない場合があり、そのために担体に結合させて、受容体依存性エンドサイトーシスなどで効率的に取り込ませること行ったりします。鉄輸送担体としてトランスフェリンを使うのが代表的な例です。

11.その他
 その他にも多くの機能があります。例えば、抗菌作用としての抗生物質などが挙げられます。ちなみに、コンタミ防止に抗生物質を培地に添加して欲しいという要望がありますが、私的には反対意見で、理由として抗生物質は半減期が短いものも多く(要は培地の保ちが悪いです)、また、殺菌的より静菌的に働き、菌が生きたまま残留することがあります。そのため、抗生物質を入れるとどの段階でコンタミしたか判らなくなるんです。凍結保存のストックを1本ずつ解凍-再培養して、どの段階からコンタミしたのかチェックするのなんざ時間も手間も掛かります。抗生物質が入っていなければコンタミはすぐに判りますし、どの段階でコンタミさせたか判りやすいってもんです。コンタミ防止は原因究明と対策が第一かと思います。

 以上が培地の機能の簡単な解説です。さわりだけではなくもっと詳しく書けと言われるとえらいことになります。論文の総説どころか、成書が何冊もできてしまいます。本ブログではそのような総説や成書ではなかなか触れない部分、ウンチクや失敗談について中心に連載しようと思っていますので今回は割愛します。


培地とは「環境」である
 このような多機能な培地についてですが、単純な説明を求められた場合には、培地は衣食住を備えた「環境」であると説明しています。更に培地の開発は「家」の設計に似たところがあると思っています。そこに住む人(細胞)が快適に住めるようにするためには、何が必要なのか、どんなものを用意すれば効率良く働いてくれるのか。培地屋さんはそんなことを考えながら培地を開発しています。つまり培地屋さんはデザイナーなんです(なんかカッコええなあ。もう「オタク」って呼ばないで)。

 さて、今回はしょうもない自画自賛で〆ましたが、次回からは失敗も含めた裏話なんぞを少し話してみたいと思います。乞うご期待。

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【主席研究員部屋2】培地ってね(前編)

 前回の自己紹介で弊社の関係各位や知り合い、更には初めての方からも手厳しいツッコミや生暖かい声援などのお声を頂きました。私の駄文を読んで頂いた方々には感謝に絶えません。ありがとうございます。今後共、(呆れずに)宜しくお願いたします。冷やかしも歓迎です。

 さて、今回は培地のウンチクを語るための最も重要な点、そもそも細胞用培地とはなんなのかについて少し話したいと思います。かなりくどいかもしれませんが、お付き合いの程をお願いします。

培地とはなんぞや
 培地とはなんぞやと書きましたが、培地は多様な機能を持っており、培地の全体像を定義するのはかなり難しいんです。今まで知り合った多くのユーザーさんが培地は栄養供給液や増殖因子の補給源というイメージをお持ちのようです。このイメージは確かに間違っていませんが、培地の持つ機能のほんの一部でしかありません。培地開発の際に配慮する培地の機能を簡単に列挙すると次のようになります。

1.栄養供給
 培地の開発では、まずこれをベースラインに据えます。細胞種毎の栄養要求性を考えて決めていきます。と言っても培地成分には難溶性や脂溶性の成分も有り、これを粉末の状態で加えて溶解可能にすることも必要で、それなりにノウハウが有ります。

2.細胞機能の誘導/抑制
 使用される細胞や目的によって、加える因子の組合せを考えます。例えば、表皮角化細胞はCa濃度によって分化が誘導されます。ただし、単純に塩化カルシウムや硝酸カルシウムで濃度を調節すれば良いわけではなく、他の成分でカルシウム塩になっているものもありますので、それらも考慮します。

3.成長因子供給
 増殖因子のことかと聞かれることも有りますが、成長因子には増殖のみならず上記の機能誘導の機能も含まれており(ややこしい言い方でごめんなさい)、増殖因子より広義の概念と捉えています。また、成長因子は蛋白性の因子と定義されることが多いのですが(ウィキペディアにもそう書いてありましたね)、蛋白性以外の因子にも上記の機能を誘導するものがあり、必ずしも蛋白性の因子ばかりではないと考えます。

4.浸透圧調整
 実はこれが培地屋の仕事のミソと言うか詰めです。培地の開発の最終段階で組成が決まってから最後に適切な浸透圧にNaClで落としこむのが常です。

5.粘性調整
 細胞用培地はしゃぱしゃぱの液体しかないわけではありません。流動性を抑えてコロニー形成させるのに増粘多糖類を加えた半流動培地を使うことがあります。これなんかは蜂蜜のような状態ですね。半流動培地は造血幹細胞の分化誘導コロニーアッセイや細胞のクローニング等に使われています。ただし固形の培地は見たことがありません。
もっとも、昔、会社の先輩から微生物の様に培地を寒天で固めたらその上でHeLa細胞の培養が出来たと聞いたことが有りますが、私は確認したことがありません。先輩になんでそんなことをしたのかと聞いたら、面白そうだからとのこと。後輩の私も似たようなことをよくやっているので、同類(いや同病か)かも?

6.pH調整
 pH調整は緩衝系の組合せで行っています。大雑把にはリン酸緩衝系、重炭酸イオン緩衝系、更にはHEPESなどのGood緩衝系が含まれます。その他のものも含めてBufferの組み合わせを細かく言えば色々あるのですが、長くなりますし、脱線し過ぎなので今回はパスします。

 話が長くなってきたんで、今日はこのへんで一服。御用とお急ぎでない方は続きをちょいとお待ちください。


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【主席研究員部屋1】初めのご挨拶

「初めに」
 まず、このブログの口上の代わりに、自己紹介も含めていささかの与太話から初めさせてもらいます。お耳汚しの話やも知れませんが、お初ということでどうかご寛恕下さい。

 さて、私は極東では「細胞関連分野の主席研究員」という役職に有ります。今まで細胞や培地以外には能が無いと言い切って会社人生を過ごしてきました。その我儘を認めてくれていた会社が太っ腹なのか、諦めていたのか判りませんがそのお陰で入社から28年間、それ以前まで含めると合計で30ウン年(歳がバレますね)、細胞や培地の開発だけに関わってこれました。ジョブローテーションなんぞという一般的な企業人の人生を無視した専門職気質の人生です。

 そんな私なのですが、この業界の先輩方には「お前なぞまだひよっ子だよ」と言われています。 大先輩の中には還暦をとうの昔に過ぎながら、なお、毎日細胞の顔を見るのが生き甲斐とおっしゃる方も居りますんで、たしかに未だ半人前なんですよね。まだまだ精進が必要なようです。

実は私「オタク」なんです
 私は社内では「極東の細胞オタク」ないしは単に「あのオタク」と呼ばれています。最初に言い出したのは以前の上司ですが、当人に自覚がなかったもので言われた当初はかなり面食らいました。「私は至って常識的な社会人である」と信じておりましたし、そのように抗議もしたのですが、周囲には相手にされません。理由はどう見ても真っ当な社会人には見えないからとのことです。

 例えば、細胞に対する表現が擬人化されていて(なんでもかんでも擬人化は最近の流行りのようですね。戦艦とか)、「うちの子は」と説明を始めたり、顕微鏡を覗きながら細胞と会話しているとかなんとか、かんとか。言われてみて初めてそれがおかしいのかと気付く有り様でした。

 ある時はイスラエルの細胞関連のビジネスマンと話していて、彼は「娘が飼っているゴールデンハムスターが可愛い」と仰ったので、私の育てているチャイニーズハムスターの娘の方がつやつや光っていてもっと可愛い、ぜひ見て欲しいと言って、私が樹立した亜株の浮遊性CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞を見せました(ほんとうに可愛いんですよ)。彼にはそれはハムスターではないとか、可愛いとはとっても思えないと言われて大層むくれたことも有りました。

 そんなこんなで最近ではようやっと「オタク」であるのを自覚するようになりました。知り合いの医大の先生曰く、症状の自覚が治療の第一歩だそうです。まあ、当人が治療を望むか否かはさておいて。一応どこぞの某氏(危険を避けるため、特に名は秘す)よりは私の方がマシなんじゃないかと反論しては見ますが、普段の言動のせいか、何方も一向に賛同して下さいません。ほぼ自業自得ですね。

門前の小僧。習わぬ経を読む
 最初に告白すると、入社してから上司や先輩から体系的に培地の作り方を教わったことは殆どないんです。入社当時は、職人気質の方が多く、見て覚えろとか、身体で覚えろみたいな状態で、GMPってなに?とか、SOP(標準作業手順書)なんて見たことも聞いたこともないとか、そんな雰囲気でした(現在はそんなことはありません。ヒイヒイ言いながらSOPなんかを書いています。)。そんな中で身に付けた技術が後の勉強で「なんだ、そうだったのかあ。」となって現在に至っています。理屈が後からついてきたようです。

 それでも今まで何とかやってこれたのは、細胞そのものが好きになり、より良く培養することを楽しむようになったからなんでしょうね。孔子の『論語』に「子曰、知之者不如好之者、好之者不如樂之者。」という言葉があります。これは「孔子は言われた、これを知る者はこれを好む者に及ばない。これを好む者はこれを楽しむ者に及ばない」という意味だそうです。まったくモチベーションの維持は好きになること、更には楽しむことだと痛感する次第であります。

 このブログではオタク人生30年で得たうんちくや失敗話を徒然書いていこうと思っています。御用とお急ぎでない方はお付き合いいただければ幸甚です。それと、我儘ついでですが、励ましのメールや質問、突っ込みなんかがありましたらcellculture@kyokutoseiyaku.co.jpに「あのオタク」宛でご連絡下さい。筆不精かつ怠惰な私のエネルギー兼ムチになるかと思います(社内にも執筆推進用ムチ係の方もおられますが)。よろしくお願いします。

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