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【特別講義 第14回】常在菌と病原菌の狭間(後編)

 細胞培養特別講義 第14回講師は、前回に引き続き、東京女子医科大学教授 菊池賢先生です。私たちに身近な感染症に関してわかりやすくお話をしていただきました。

 

■ 講師紹介ページ:東京女子医科大学 菊池 賢先生

 

 

“常在菌と病原菌の狭間”

~ Viridans group streptococciに魅せられて~

東京女子医科大学 感染症科教授

菊池 賢 先生

 

 <後編>

 

感染性心内膜炎に取り組む

 

 緑膿菌の実験感染モデルを用いた抗菌薬併用理論の仕事で学位を取得し、次に何をやろうか考えていると、清水教授から「昔のレンサ球菌 (viridans group streptococci: VGS) による感染性心内膜炎 (infective endocarditis; IE) はペニシリンをそんなに使用しなくてもよく治ったのに、最近の症例は随分治療に抵抗するものが多い。ちょっと調べてみてくれないか。」とのリクエストがあった。

 

 その少し前、帝京大学臨床病理学の紺野昌俊教授が「口腔咽頭のVGS には抗菌物質(バクテリオシン)を産生する株があり、MRSA定着を阻止してくれている」という非常に斬新な講演をされた。「VGSによる細菌干渉はMRSA制御の切り札になるかもしれない」と思ったことから、VGSの名は頭に強く焼き付いていた。

 

 しかし、私はIEの症例をほとんど経験したことがなく、VGSという菌を自分で扱ったことはなかった。女子医大病院では当時、年間20例程のIE患者があり、他施設の協力もあってIE由来VGS株は100株近くが集まった。

 

 ところが、菌名がわからない。VGSはラテン語で緑を意味する

 ”viridans”—即ち、血液寒天上でコロニー周囲に緑色の変色域を形成するレンサ球菌の「総称」であり、病原性の高いStreptococcus pyogenes, Streptococcus agalactiaeなどのいわゆる溶血性レンサ球菌に属さない、その他大勢の「レンサ球菌のゴミ箱」だったのである。

 

 ゴミ箱の中は混沌としており、菌種の記載も研究者によって異なり、総説や論文を読んでもそのtaxonomyを理解できなかった。例えば、現在のStreptococcus mitis groupに属するS. mitis, S. oralisは研究者によっては ”Streptococcus mitior”, “Streptococcus sanguis II”, などとそれぞれ別の名前で記載され、しかも別の論文では ”S. mitior”は正式な菌名ではないと書かれている。S. anginosus groupもその正式な菌種名よりも通称の ”S. milleri”や “Streptococcus MG”などが平然と使用されており、「VGSの分類がそもそも整理されていない」ことが理解できただけであった。

 

 細菌の系統分類学は学問としては「ランクの低い、重要性に欠けるもの」と認識されがちであるが、本来、全ての細菌学の基盤となるものである。研究の基盤が定まっていなければ、せっかく出した結論自体が怪しげな物となってしまう。この底なし沼の経験は私に菌の分類学の重要性を強く印象づけ、以後の私の研究は、先ず、研究対象の系統分類を確認する所から始めるようになった。

 

 私は当時の「菌種同定のgold standard」であるDNA-DNA hybridization (DDH) 法を学ぶため、岐阜大学医学部微生物学を訪ねた。ようやくVGSに取り組んでから2年が経ち、VGSの菌種同定に目処が経った1)。DDHは実験手技が非常に煩雑で、ある程度の量の純化DNAを必要とし、実験間誤差が小さくないことから、全ゲノム解析によるin silico DDHやANI indexなどがこれに取って代わり、あまり用いられることはなくなったが、新菌種記載における科学的意義は今も揺るいではいない。

 

 現在はMALDI-TOF MSが微生物検査室に導入されるようになって、随分「同定困難」な菌種は少なくなったが、MALDI-TOF MSが苦手にする菌種もまだまだ多い。一般的には16S rRNA遺伝子配列やsodA, rpoB, groEL, gyrBなどのhouse keeping geneの部分配列解析が主流になっている。

 

 VGSについては岐阜大学の河村らにより16S ribosomal RNA遺伝子の塩基配列に基づいたクラスター分類が提唱され、①anginosus group(S. anginosus、S. constellatus、S. intermedius)、②mitis group(S. mitis、S. oralis、S. pneumoniaeなど)③mutans group(S. mutansなど)、④salivarius group(S. salivariusなど)がVGSと分類されるようになった2)。

 

 VGSには現在、およそ50種類程の菌種登録がされているが、今後も菌種数は増加すると思われる。この分類は、菌の病原性や分布を推定する上でも非常に有用であることがわかってきた。例えば、IE由来VGSのほとんどはmitis groupに属し、IEと血液悪性疾患患者以外の患者に発症する敗血症の起因菌ではanginosus groupが多い3)。

 

 その一方、各クラスターに含まれる近縁の菌種同定は16S ribosomal RNA遺伝子解析では対応できない。国際細菌命名委員会の規定ではそれぞれの16S rRNA geneが97%以下のhomologyであれば、違う菌種であると、判断される。例えば、mitis groupのS. mitisとS. sanguinisは96.7%のhomologyなので、菌種としては異なる。

 

 ところが、S. mitisとS. pneumoniae, S. oralisの16S rRNA遺伝子のhomologyは99%を越えているので、これでは菌種が違うと判断できない。16S rRNA遺伝子はデータベースが最も充実しているのであるが、必ずしも菌種同定には十分でないのである。MALDI-TOF MSでもこのような近縁の菌種同定は困難であることがわかっている。幸い、VGSの同定にはsodA配列解析が優れていて、これで大概問題ない。

 さて、IEは感染性心内膜炎と訳される。余談ではあるが、IEに関して昔から疑問に思っていることが2つある。多くの「感染性」を示す形容詞は「infectious」を使用する。「感染症」は「infectious disease」だ。こちらがメジャーなのに何故か感染性心内膜炎だけは「infective endocarditis」である。

 

 有名なIEの診断基準、Duke criteriaを作成したDuke大学のDurack教授が来日された時、光栄なことに、IEについて対談する機会があった。随行された書記役の記者が「infectious endocarditis」と話した途端に、「No, infective endocarditis」と強い口調で修正された。何か「infective」への強いこだわりを感じた。

 

 辞書等を調べてみると、「infective」は「producing or capable of producing infection」で、「infectious」は「caused by the entrance into the body of organisms which grow and multiply there」とあり、「infective」は「referred to the agent」、「infectious」は「referred to the process」の傾向があるというが、明確な使い分けはなされていないとの説明もある。少なくとも、私はinfective endocarditis以外の疾患で「infective」が一般的な病名に使用されているのを見たことがない。どなたか、ご存知だったら、是非、ご教示願いたい。

 

 もう1つは「心内膜」である。「心内膜」とは、心臓の内腔を覆う上皮(扁平上皮の内皮層とその下層の繊維が細胞、膠原線維、弾性線維)のことであるが、実際には心室や心房内の心内膜が侵されることは、心室中隔欠損などの流路異常がない限り極めて稀で、心内膜炎ではほとんどが弁に病変が生じる。

 

 「弁膜症」という用語があるように「弁膜炎」でも良いと思うのだが、1885年にこの疾患を総括したWilliam Oslerは、既にこの時点で「endocarditis」という名称を用いている4)。

 

 現在の黄色ブドウ球菌などによる急性感染性心内膜炎を「malignant endocarditis」として紹介し、弁輪部の破壊や潰瘍形成が著明なことを記しているので、これは弁から心臓内部にも病変が及ぶという意味で「endocarditis」が適切と判断したのかも知れない。

 

 IEは心臓の弁に病変をきたすことで、閉鎖不全などの心臓の物理的なポンプ機能障害を起こすと同時に、そこで増殖した菌塊が遊離して全身に回る「菌血症」をきたす。病態生理的には心臓の機能不全と全身感染、感染播種という両面(さらに言えば、免疫複合体による血管炎を加えた3面)から説明される。欧米では起因菌としては随分前からブドウ球菌がトップを占め、VGSは2番手になっているが、我が国ではまだVGSによるIEが最も多い。これは麻薬等の薬物使用者に多い右心系IE(その多くは黄色ブドウ球菌による)が我が国では極めて少ないなど、社会背景が影響していると考えられている。

 

 OslerはIEを、急性転帰を取るmalignant endocarditisと、亜急性経過を示すsimple endocarditisに分けて記載しているが、どちらにしても確実に死に至る疾患と認識されていた。放射線照射、温熱療法、マラリアに人為的に感染させる治療(マラリア感染による高熱で菌を死滅させようとした)、水銀、砒素化合物やホルマリン投与などが行われていたが、いずれも効果はなかった。

 

 ペニリシン上市後は、治療可能になったとは言え、治療期間は長く、脳出血、脳塞栓などの致死的な合併症頻度も少なくなく、大変な感染症であることに変わりはない。

 

 VGSによるIEの症例を細かに調べてみると、ペニシリン投与後すぐに解熱し、良好な経過を取るものから、治療効果が中々あらわれず、治療終了後にしばしば再燃して、手術が必要な症例までかなり臨床経過が多様であることがわかった。

 

 しかし患者の血液培養から検出されるVGS株にペニシリン耐性はほとんどなかった。これは今でも同様の傾向であり、IE由来VGSのペニシリン耐性率はこの30年間ほとんど変化がない。近縁の菌種である肺炎球菌が急速にペニシリン耐性を獲得したのとは非常に対照的である。肺炎球菌のペニシリン耐性起源はIEを起こす頻度の高い S. mitis, S. oralisなのにである。

 

 それでは何が治療抵抗性を規定しているのであろうか。VGSによるIEは以前、「subacute bacterial endocarditis: SBE」と呼ばれていたことがあったように、発熱等の症状が出てから、診断されるまでの経過が数週間から数ヶ月と比較的長い。それには、VGS自体の病原性という菌側の因子に加え、外来診療で安易に投与される抗菌薬の影響が大きい。

 

 典型的なVGSのIEの経過を見てみよう。風邪等の気道症状がなく、発熱、悪寒戦慄だけが続く。近くの診療所で検査してもらうと、白血球数、炎症マーカーのCRPなどが高値を示す。この時点で血液培養が取られれば、診断がつく可能性が高いのだが、多数の患者を診る外来診療の現場で血液培養が採取されることは稀である。

 

 大概、「感染部位はよく分らないけれど、とりあえず抗菌薬を出して経過を見ましょう」となる。5日分の抗菌薬を飲んでいると、熱は下がり、体調は回復するが、薬が切れると、再び同じ症状が出る。これを2-3回繰り返しているうちに、息切れや足の浮腫、呼吸困難などの心不全徴候が出てきて、「これはおかしい」と病院を紹介されて、心臓の超音波検査などを実施して、初めて診断が下る。この間に使用された不十分な抗菌薬治療の種類、期間などがIEの病態に影響している。

 

 診断がつくまでの期間が長ければ長い程、治療は難しくなり、予後は不良になる。また、感染を起こした弁の部位(例えば右心系と左心系では治療期間も異なる)、合併症の有無なども治療への反応性に大きく影響している。

 

 その一方で、IE患者の宿主側因子を揃えて、病態に及ぼす菌側の要因を解析すると、治療抵抗性に関与する菌側の因子が明らかになってきた。「ペニシリン・トレランス」である。

 

 「ペニシリン・トレランス」とは本来、殺菌的に作用するペニシリンが静菌的にしか効かない現象で、肺炎球菌やS. pyogenesでは以前から知られていた。MICと最小殺菌濃度(minimal bactericidal concentration: MBC, 接種菌量の99.9%が殺菌される最低濃度)に32倍以上の乖離が認められるものが「トレランス」と定義されている。IE患者由来のVGSにはこのペニシリン・トレランスを示す株が多く、更にMIC近傍よりも高濃度で殺菌力が逆転する「Eagle効果」を呈する菌が少なくないことが明らかになった5)。

 

 ペニシリンはMIC以下の濃度になっても菌が発育を再開するまでに一定のタイムラグが生じ(postantibiotic effect: PAE, postantibiotic sub-MIC effect: PASEと呼ぶ)、このことがペニシリンを間欠的に投与しても有効である証左となっているのだが、こうしたトレランス株ではペニシリンに対するPAE, PASEはほとんど認められず、治療抵抗性の一因となっていることが推察された6)。

 

 実際の症例で、トレランス株と非トレランス株のIEの臨床経過を比較してみると、トレランス株によるIEでは、解熱、炎症所見改善までの期間が有意に長く、治療開始後の血液培養陽性例がしばしばみられた。逆に診断確定時の炎症所見はむしろトレランス株例の方が低く、宿主の免疫反応はむしろ弱かった5)。このことは、トレランス株では宿主に認識されにくく、ペニシリンによる治療抵抗性と併せ、難治性となっていることを示唆している。

 

トレランスはVGSの中でも、S. sanguinis, S. gordoniiに多く認められ、S. oralis, S. salivariusでは少ないなど、菌種によってその分布が異なっていた5)。

 

 これらの菌種は同じmitis groupに属し、通常、検査室で行われている生化学的手法での同定は困難である。ここで私の苦労が実臨床に役立つことになった。IEの起因菌の正確な同定は、患者の予後予測のみならず、治療選択に直接関わってくる。トレランス株にペニシリンの殺菌性を発揮させる為にはアミノ配糖体の併用が効果的だからだ3)。

 

 トレランスの機序は肺炎球菌では自己溶解酵素発現調整の異常であると考えられているが、VGSでのトレランスが同じ機序によるのかどうか、またその調整機構異常の引き金となるのが何であるのかなど、まだ不明な点は多い。

 

 我々はoxidative stress応答やCO2代謝がトレランスとリンクしていることを見いだしているが(未発表)、この解明は次の検討課題である。

 

以下、次号に続く。

 

 

【文献】

1. Kikuchi K, Enari T, Totsuka K, Shimizu K: Comparison of phenotypic characteristics, DNA-DNA hybridization results,and results with a commercial rapid biochemical and enzymatic reaction system for identification of viridans group streptococci. J Clin Microbiol 33: 1215-1222, 1995.
2. Kawamura Y, Hou X G, Sultana F, et al. Determination of 16S rRNA sequences of Streptococcus mitis and Streptococcus gordonii and phylogenetic relationships among members of the genus Streptococcus. Int. J. Syst. Bacteriol. 45: 406-408, 1995.
3. 菊池 賢、小野由可、大串大輔: viridans group streptococci (VGS) が教えてくれるもの. 化学療法の領域25: 168-173, 2009.
4. Osler W. The Gulstonian lectures on malignant endocarditis. Br Med J i, 467-470, 522-526, 577-579, 1885.
5. Kikuchi K, Shimizu K: Therapeutic problems in viridans streptococcal endocarditis. J Infect Chemother 2: 8-17, 1995.
6. Kikuchi K, Enari T, Minami S, Haruki K, Shibata Y, Hasegawa H, Katahira J, Totsuka K, Shimizu K: Postantibiotic effects and postantibiotic sub-MIC effects of benzylpenicillin on viridans streptococci isolated from infective endocarditis patients.  J Antimicrob Chemother 34: 687-696, 1994.

 

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